編集部
民法改正で不動産取引はどう変わるの?瑕疵担保責任から賃貸借契約などわかりやすく解説!
[不動産知識]
2020年4月より民法が改正されます。民法改正は私たちにとって身近な憲法です。今回は不動産取引について改正のあった内容について解説します。もしものときに困らないようにしっかりと把握しておきましょう。
目次
不動産の民法改正は中古マンションなどを購入しやすくするため
◆120年ぶりの民法改正
そもそも民法とは、私たちが生活する社会における基本的なルールのことを指します。一般の方にとってもっとも身近な法律と言ってもいいでしょう。
民法は明治29年(1896年)に制定・公布された後、債権関係の規定に関しては約120年間も改正されることがほとんどありませんでした。約120年も時が経てば、技術の向上や情報伝達手段の発展、取引内容の複雑化など様々な面でこれまでの法律では対応が難しい場面が出てきます。そこで、その変化に対応するための見直しと、法律に詳しくない一般の方にもわかりやすいように民法の改正に踏み切ったのです。
◆不動産取引においては、中古マンションなどを購入しやすくなる!
民法改正のうち不動産取引においての大きなポイントとして、「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へと名称が変更されます。
これは特に中古マンションの売買において買主が、より中古マンションを安心して購入しやすくなるものなのです。詳しくは以下の『不動産の民法改正で「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ』で解説します。
◆賃貸借契約の賃借人にもメリットがある
さらに今回の民法改正では、賃貸借契約においても一部内容が改正されます。
ここでのポイントは、現状回復の範囲の変更などです。賃貸借契約が終了した際に賃借物(室内や室内に備え付けの家具や家電)は元の状態に戻して返還しなければいけません。中でも通常損耗や経年劣化など通常通り生活していたらどうしても傷つけたり汚れてしまったりしてしまうものも原状回復しなければいけませんでしたが、改正後は通常損耗や経年劣化は原状回復を負わなくてすむようになります。
この他にも民法改正後に変わるルールがありますが、詳しくは以下の『不動産の民法改正で賃貸借契約も変わる』で解説します。
民法改正でおさえておきたいポイント
今回の不動産取引における民法改正でおさえておきたいポイントを表にまとめました。
・瑕疵担保責任に関する民法改正
※クリックすると大きく表示します。
・賃貸契約に関する民法改正
※クリックすると大きく表示します。
各項目や用語に関しては次の章からひとつずつ解説していきます。
瑕疵担保責任とは、任意規定である
民法改正について解説する前に、まずは理解しておくべき民法における基本的な認識を解説します。
◆任意規定とは
任意規定とは、言葉の通り強制的な内容ではないということです。つまり不動産取引における契約で、契約当事者(不動産取引の場合、買主と売主)の合意があれば、民法のルールよりも契約上の内容が優先されるということなのです。
◆瑕疵担保責任を負う期間
民法上の瑕疵担保責任の期間は、買主は瑕疵の存在に気づいてから1年間は売主に対して責任を問うことができました。しかし、それでは売主側の負担が大きすぎるため、売主が個人の場合は一般的に瑕疵を知ってから2~3か月間にするケースがほとんどです。
ただし売主が宅建業者の場合は、宅地建物取引業法では原則として買主に不利となる特約は無効となり、「引き渡してから2年間以上」としなければなりません。これに関しては民法改正後も変更はありません。
不動産の民法改正で「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ
◆瑕疵担保責任とは?
まずは瑕疵担保責任という言葉について、簡単に解説します。
「瑕疵」とは、購入した住宅に本来備わっているべき機能や品質などが損なわれていることです。その中でも目で確認できなかったり、住み始めてすぐには気づけなかったりするような認識しにくい瑕疵のことを「隠れた瑕疵」と呼びます。
この隠れた瑕疵が見つかった時に、売主に対して損害賠償請求などができるルールが瑕疵担保責任です。
具体的に瑕疵には大きく分けて4種類存在します。
・物理的瑕疵……建物に対する物理的な欠陥。例:配管の水漏れや土壌汚染など。
・法律的瑕疵……法的な制限によって自由に使えない欠陥。例:建物の建ぺい率に違反しているなど。
・環境的瑕疵……物件を使用するにあたって周辺環境に弊害があるとき。例:近隣にゴミ屋敷がある。騒音がひどいなど。
・心理的瑕疵……物件の過去に事故死や事件などがある、いわゆる事故物件。例:前居住が室内で病死していたなど。
この4つの瑕疵のうち物理的瑕疵が「隠れた瑕疵」に当たり、それ以外の瑕疵は事前に認識できるものが多く、「見える瑕疵」となりうることがほとんどです。特に心理的瑕疵にあたるものは告知事項として売主側が必ず買主に報告しなければなりません。
また、売主が事前に把握している瑕疵については、買主に対して通知する義務があります。それを怠った場合には瑕疵担保責任において、期間を過ぎても損害賠償請求や契約解除の要求を受けなければいけません。
もし仮に、売主が事前に把握しておらず、買主も内見した際などに気づかなかった瑕疵があったとします(隠れた瑕疵)。そのまま買主が中古マンションを契約した後に、雨漏れが発生していることに気づいた場合、契約時に定められた期間内であれば損害賠償請求などができるルールが瑕疵担保責任です。
◆隠れた瑕疵の廃止
2020年4月からの民法改正では、前述した「瑕疵担保責任」という表記から「契約不適合責任」に変更されます。
これはより瑕疵の範囲をわかりやすくするためです。つまり売主は契約内容に沿っていない、内容に記載がない瑕疵に関しては全て責任を負わなければいけないということです。
そのため、売主は契約書に、前述した4つの瑕疵に当てはまる瑕疵を認識している場合はもちろん認識できないような瑕疵についても、どの程度責任を負うかなどの詳細な内容を記載しておかなければなりません。売主は契約書を作成する前に住宅の綿密な調査とともに契約書の見直しが必要になってくるのです。
買主の立場からすれば、契約書の内容をしっかりと把握することが大切です。契約をしてから後日瑕疵の存在に気づき、その瑕疵が契約書の内容に沿わなければ売主に対して損害賠償請求などができるため、これまで以上に部屋を購入する際の契約書をしっかりと確認しましょう。
不動産の民法改正で買主ができることが増える!
これまでの瑕疵担保責任では隠れた瑕疵が見つかった際、発生した損害について売主に損害賠償請求や契約の解除しかできませんでした。
ですが、民法改正で契約不適合責任となったことと同時に、契約の内容に適合しない物件を引き渡された際、新たに追完請求や代金減額請求ができるようになりました。また、損害賠償請求や契約解除の内容も変更になっています。
但しいずれも買主に帰責事由(欠陥の原因が買主である)がないことが前提です。
◆買主が知っている契約不適合(瑕疵)でも損害賠償請求ができる
これまでの瑕疵担保責任でも損害賠償請求はできましたが、内容が少し変更になり債務不履行(法律で定められた業務を全うしないこと)の一般規律に服することになりました。
これは前述した隠れた瑕疵の廃止によって、買主が購入前に気づいていた瑕疵についても損害賠償請求ができるということになります。
また、損害賠償責任の対象範囲が信頼利益から履行利益に変更になります。
これまでの信頼利益なら売主が負う責任は欠陥部分の補修で済んでいたのですが、履行利益に変更になったため、例えば買主がその中古マンションを転売する目的で購入した場合は、その失った転売利益(転売して儲けるはずだった利益)まで賠償責任が発生することになるのです。
◆契約解除の条件が明文化される
契約解除に関しては、これまで不明瞭だった部分が明文化され、契約解除できるケースが増えます。
これまでは債務不履行がある場合でも、売主に帰属事由がないと契約の解除ができませんでした。しかし改正後は、売主に帰属事由がないものであっても契約の解除が可能になりました。
また、付随的な債務の不履行(使用の際の注意書きなどを付けることを怠る)や不履行の程度が軽微のもの(目立たない程度のひっかき傷が付いていた)については契約の解除ができないことも明文化されています。
要するに、売主に責任がなかったとしても、購入した物件が住めるような状態でない場合且つその原因が買主にない場合には、契約の解除ができるということです。
◆契約不適合(瑕疵)に対して追完請求・代金減額請求ができる
今回の契約不適合責任において新たに買主が取り得る手段として、追完請求と代金減額請求があります。
追完請求とは、部屋の中で発生した雨漏りなどの修理費を売主に依頼することです。代金減額請求とは、「自分たちでその雨漏りを修理するから、その分の代金を減額してほしい」と請求をすることです。これまでこの二つの請求はできませんでしたが、民法改正後に新たに請求できるようになりました。但しいずれも買主に帰属事由がないことが条件となるので、ご注意ください。
不動産の民法改正で賃貸借契約も変わる
今回の民法改正では賃貸借契約についても大きな変更があるため、しっかりとおさえておきましょう。
◆賃借人が自分で修繕できる
これまでの民法では、賃借人が住んでいる部屋の修繕が必要になったとき、賃貸人(大家さんや管理人)などに連絡して修繕をしてもらわなければ、修繕ができませんでした。そのため、賃貸人がなかなか対応してくれずに修繕がされない期間が続いてしまうというトラブルもありました。
そこで民法改正後は、賃借人が修繕の必要があることを賃貸人に通知し、賃借人が相当の期間内に必要な修繕をしなかった場合と、窮迫の事情があるときに限り賃借人自身が部屋の修繕をすることができるようになりました。
◆原状回復義務の範囲が明文化される
賃貸借契約が終了した際(賃貸の部屋を出るとき)に、賃借人は賃借物を原状の状態に戻して賃借人に返還しなければいけません。また、この原状回復の範囲に関しては、一般に通常損耗(普通に使用していて消耗した賃貸物)および経年劣化についてはその対象に含まれませんでした。これらのルールは改正後も変更はないのですが、改正前の民法には明確に文言で示した箇所がなかったため、場合によってはその範囲の捉え方に違いがあり、トラブルも起きていました。
そこで民法改正後には、賃借物を受け取った後に生じた損傷については原状回復の義務を負うこと、そして通常損耗や経年劣化については原状回復の義務を負わないことが明記されたのです。
(出典:賃貸借に関するルールの見直し「法務省:賃貸借契約PDF」より)
◆極度額(上限額)を定めない個人保証人は無効になる
賃貸借契約をしたことがある方は経験があると思いますが、賃貸借契約の際には本人以外の保証人の存在が必要です。改正された民法では、その保証人が想定外の債務を負わず、負担が軽くなるようになりました。
個人が保証人になる根保証契約(一度の契約で将来発生する債務ついて保証する)については、保証人が支払いの責任を負う上限となる「極度額」を定めなければ、保証契約は無効となります。そして「○○円」と明確に書面に記載する必要があります。
◆敷金返還に大きな変更はない
敷金とは、賃借人が部屋を汚したり損傷させたりしたときに修繕費用として充てるために賃貸人が事前に預かる金銭のことです。
民法改正前においても、賃貸借契約が終了した際に返還されていましたが、民法には規定がなく、トラブルも多くみられていました。そのため、敷金の返還時期・返還範囲などのルールが民法に明記されました。
敷金の返還時期に関しては、賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点。返還の範囲は、受領した敷金の額からそれまでに生じた金銭責務を控除した残額となります。
◆使用できなくなった賃借物が出た場合、賃料は減額となる
今回の民法改正では、エアコンや給湯器など元々部屋の設備として設置してあった賃貸物が故障などで使用できなくなった際、賃借人の帰属事由がない限りは賃借人に対して賃料の減額請求ができるようになりました。
とはいえ、まずは前述したように賃貸人に通知して修繕を依頼することが前提であり、通知後に賃借人の対応が遅くなり不便を強いられる状況のときに請求するのが一般的です。
まとめ
民法は私たちには、とても身近な法律です。
特に現在賃貸アパートにお住まいの方や将来中古マンションなどの購入を検討されている方にとっては、少し知識があるだけでも、もしものときに役立つでしょう。
約120年ぶりに改正されるこのタイミングで、本稿が少しでも学ぶきっかけになれば幸いです。
『参考HP:法務省 民法の一部を改正する法律について』